「神戸酒心館」代表取締役社長 安福武之助さん

日本一の清酒生産量を誇る兵庫県。中でも神戸市から西宮市へと続く地域・灘五郷は国内有数の酒処。六甲山系から湧出する宮水や、兵庫県で生まれの酒造好適米・山田錦、この地特有の吹き降ろす風・六甲颪(おろし)など、様々な要素が作用しあうことで、今日まで酒造りの文化が育まれてきた。そしてこの地で1751年の創業からのれんを守る「神戸酒心館」。その未来を見据えた取り組みなどについて安福武之助さんにお話を聞いた。

【目次】

1.経験が生んだサステナブル経営

“福寿 純米吟醸”が代表銘柄の「神戸酒心館」。順風満帆のように映るが、1995年の阪神淡路大震災では大きなダメージを受けた。しかし「地域の皆さんのサポートのおかげで再出発できました」。それ以来、“地域とともに”という意識が一層強いものに。「酒蔵と酒米を作る農家、そして地域も一緒に。買い手よし・売り手よし・世間よしの“三方よし”という言葉は本当にその通りだと思います」。またもうひとつ海外のワイン展示会に日本酒を出展した経験から学んだことがある。華やかな展示の一方で、サステナビリティを競うコンクールが開催。そこで目にしたのは「海外ではすでに環境配慮型商品がトレンドであり、当たり前」という現実。そして生まれたのが “サステナブル経営”だ。

2.酒蔵が一丸となった取り組み

麹造りは箱麹法で完全手造りの一方、
麹米の水分含量などデータ化し、
効率よく麹造りを行う

“サステナブル経営”とは、「経済価値と環境価値のふたつを目指していくこと」。省エネルギーな設備の導入や、杜氏から醸造技術を教わり、データ化。社員で効率的な酒造りを可能にし、労働時間の適正化やワーク・ライフ・バランスを確保。その結果、2010年からの7年間で日本酒の生産量が3倍に増えたにも関わらず、CO2(二酸化炭素)排出量は12%削減。水の使用量は35%増に抑えるなど酒蔵が一丸となった取り組みが認められ、2019年には“エコプロアワード財務大臣賞”を受賞した。

3.古くて新しい、地域が持つ価値

節水技術を積極的に導入し、
ジェット式気泡で洗米する
節水型設備や、一部の水を再循環させる設備を導入

順調に成果が表れる中、安福さんはいたって冷静だった。なぜならSDGsという言葉が世に出るはるか昔から、灘五郷では同じようなマインドが存在していたから。農家と契約し酒米を育ててもらう“村米制度”は、地域の農業支援が目的。“水車精米”は再生可能エネルギーの利用。また学校教育にも力を入れてきた。「灘五郷は古くからSDGsを実践してきた。そういう意味でこの地域の価値は、もっと高められる。これからも灘五郷のことを発信していきたいです」。

4.人と地域と環境。共生の先に

循環型農業で生産された山田錦など、
素材の酒米にもこだわって様々な日本酒を
醸造している

これからの目標はまず「地産地消を実現すること」。すでに地元産素材での酒造りは達成。現在は酒造業界でのサーキュラーエコノミー(循環型経済)の具現化を目指している。また灘五郷にしかない日本酒を造ること。ここにしかない個性に価値が生まれ、それが地域の繫栄につながるからだ。そしてそれらの根底に流れているのは“エシカル(倫理的な)”という理念。人によし・地域によし・環境によし、という現代の“三方よし”。今日もその想いを胸に、地球にやさしい灘五郷の酒を醸し続けている。