左から) 「あがらと」代表取締役 土井新悟さん、
ファームディレクター/フローリスト 久山 秋星さん、
百姓 市岡香貴さん

和歌山県南部、山林が約96%を占める古座川町で10種類以上の野菜や米、食用のバラを栽培する「あがらと」。2016年、代表取締役の土井新悟さんがお父様の実家があるこの地で20年以上耕作放棄地となっていた土地の開墾を始め、2017年に竹を骨組みにしたハウス造りに着手し創業した。その名称は、和歌山県紀南地方の方言“あがら=わたしたち”と、一緒にの“と”を組み合わせたもの。地域の人々や植物、動物といったすべての命とともに、豊かな未来を拓いていきたいという土井さんの思いが込められている。

【目次】

1.土に還る廃棄資源をリユースした竹ハウスで野菜やバラを栽培

土に還る竹を使い、自分たちで組み立てた
風通しのよい竹ハウスで栽培

「竹ハウスを造ったのは、荒れた竹林の竹を資源活用するためです。竹には防腐防虫のため柿渋を塗り、朽ちたらその部分だけ取り替え、使い終わったものは燃やして炭にし、肥料として使っています。ハウスのネットは建設現場の足場のメッシュシートなんです。風が通り抜け虫よけにもなるので、バラの栽培に適しています」と土井さん。自分たちが使うものは、リユースと土に還ることにこだわっている。「竹ハウスは台風などで何度も倒壊しました。その度に諦めず修繕したことで、地域の人からの信頼を得ることができ交流が始まったんです」。

2.冬に仕込む植物性肥料で、環境と人に配慮し自慢のバラを育んで

農場は谷合の、一年中風が通り抜ける
バラの成育に適した環境にある

「あがらと」がこだわっているのは、“ぼかし”と呼ばれるもみ殻や米ぬか、油粕などを混ぜて微生物の力を借りて発酵させる昔ながらの植物性肥料を使うこと。“ぼかし”は作物を育てていない冬の間に作り、できあがったら乾燥させて保存。4ヵ月から半年かけて一年分を作る。また、野菜や米とともに栽培に力を入れている食用のバラは2017年、古座川町に移住した久山秋星さんが中心となって育てている。「移住前はフローリストとして京都の生花店に勤めていました。そのとき農薬アレルギーで好きな花を手にできないお客様と出会い、農薬について考えるようになったんです」。そんな折、出会ったのが「あがらと」の土井さんだった。ぼかしだけを使う農法や、考え方に共感し、「あがらと」の一員になった。

3.バラの加工品で地域に産業を生み、財政の立て直しをサポート

左から)Dew Rose JAM(ローズジャム)、
Dew Rose &VINEGAR(ビネガー)、
Dew Rose BUTTERーnaturalー(バター)

収獲したバラは、自社ブランド「Dew Rose」で香料やゲル化剤を使わずに、ジャムやバター、ビネガーなどに加工している。「あがらと」がバラを加工品にして販売するのは、地域に産業を生み出すため。また、農業で食べていけることを伝えたかったと土井さんは言う。「三尾川の農家の方にバラ栽培をレクチャーすることで、バラを育てる方が増えました。我々と同じ方法で栽培したバラは、買取り価格を若干上乗せして仕入れています。そして、その上乗せ分は村に寄付してもらい財政の立て直しをサポートしているんです。野菜の買取りも同様のシステムで行っています」。

4.地元の人の恩恵に感謝しながら、この地の豊かな未来を拓きたい

地元の農家の方たちに、農業で生活していけること、そして諦めない姿勢を伝えることができたと実感する土井さん。「三尾川の人たちはやさしくて、米を作っているときに手伝ってくれたり、天ぷらや茶粥を振る舞ってくれたりします。だからこそ余計に、自然に寄り添った生活をされている方の精神を受け継ぎ、この地域を未来に残していきたいという思いが強いんです。食用バラやその商品を通して、こんな地域があることを広く知っていただきたいですね。将来的には世界に通用する農法を確立し、世界各地から多くの人が学びに来てくれるような場所にしたいです」。