売場ニュース
「神戸の顔」として、中心地・三宮でずっと親しまれて続けている百貨店。90年間、神戸のひとたちと紡いできた物語をたどってみます。
第2回：エポック1945
前略、川の上より
6駅が乗り入れる“ターミナルのまち”三宮。最大のポイントは、「それぞれの駅が、微妙に離れている」こと。遠い…というほどではないけれど、ちょっと歩く。でもその「ちょっと」が、三宮のいろいろな顔を見せてくれるのです。
たとえば、JR三ノ宮駅（※JRだけ「三ノ宮」表記）で降りて、阪急神戸三宮駅に乗り換える場合。JRの西口改札を出たら、斜め向かいが、もう阪急の駅です。だけどうっかりJRの中央改札や東口改札から出ると、どうにかしてフラワーロードを横切らなくてはなりません。
フラワーロードを横切る方法は、地下・地上・空中の3つ。私が好きなのは「空中」、線路に平行して駅を東西につなぐ連絡橋です。
連絡橋の真ん中に立って南を向くと、三宮を南北に貫く広々としたフラワーロードが、どーん！とまっすぐ海まで続いているのがわかります。それもそのはず、この道路は、1871年まで生田川だったそう。150年ちょっと前、明治になってすぐまで、ここは「川の上」だったんですね。
ここから、新しいくらしをつくろう
昭和初期、このフラワーロード沿いに、東（写真左）に百貨店が華々しくオープンし、西は元町方面へ商店が並んで、“ターミナルのまち”三宮が始まった…というのが、前回の話でした。だけどそれからほんの12年後の1945年、第二次世界大戦の最後の年に神戸大空襲があり、三宮はこの百貨店だけ残して灰燼に帰してしまったといいます。
いま、橋の上に立ってまちを眺めていると、そんな過去は、ウソみたい。でも180度ぐるっと北を向くと、線路と連絡橋を隔てるフェンスの向こう、鮮やかな青色に塗られた鉄の高架に、ところどころ穴があいている場所があるのに気づきます。空襲のときの戦闘機による機銃掃射によるものだそう。平和な日々のありがたさに、ハッと気づかされる瞬間です。
鉄の高架の穴……
阪急神戸三宮駅のホームを見上げると焼夷弾が屋根を突き破った穴が
そして、三宮は強いのだ！ 空襲でも三宮で唯一残った百貨店は、「復興」そして「希望」の象徴。占領下には地下にダンスホールがオープンし、終戦2年後には「アメリカ・モード展」が開催されたといいます。一帯は、ここから戦後の新しいくらしをつくろうというひとたちでいっぱいだったそう。すべてなくなった。だからこそ、前向きなひとたちが集まるのかもしれません。さあ、ここからどんなまちを、どんな未来を、つくっていこう!?
穏やかに晴れた日の、川のせせらぎのように
地下にある阪神電車・神戸三宮駅西口改札のお隣は、神戸阪急本館の地下食品売り場の入口です。神戸や芦屋など阪神間で誕生した華やかなケーキやバームクーヘンの間を通って、神戸牛や地元駒ヶ林の魚など生鮮食品が並ぶ新館地下へ向かう途中、短いですが、ぐんと坂を下り、ちょっと坂を上る場所が出てきます。あれ？ そういえば、南側にある新館地下って、北側の本館地下より、「下」になってるんじゃないかしら？
地下鉄駅や百貨店の地下フロアは、三宮の地下街、その名も「さんちか」につながっています。あらためてフラワーロードの真下を歩くと、たしかに道が、南へ向かって下り坂になっているのがわかります。メインストリートはスロープが、その他の場所は階段が、繰り返し現れる。さらにここから西へ、元町の方へと続くセンター街の地下に曲がろうとすると、今度は階段を上がるポイントが現れます。
実はこの「高低差」こそが、もともとこの場所が生田川であり、地下街は川底を利用するかたちでつくられた名残なのだとか。そう聞くと、地上へつづく階段が、ちょうど川岸から堤防を上がっていく階段に思えます。
逆に、駅へと向かう帰り道は、さながらアユの川上りのように、メインストリートをゆるゆると、あるいはたまに現れる短い階段をぴょんぴょんと、川を遡上していくことになります。そうして駅に着く前、また180度向きを変えて南を見ると、ちょうど通勤時間帯のターミナル駅のように、かつての川底を多くのひとが南北に流れる光景が見えます。ただターミナル駅と違うのは、ここではショッピングに訪れるカラフルな服装のひとたちが、楽しそうにさざめき合っているところでしょうか。ちょうど、穏やかに晴れた日の、川のせせらぎのように。
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