[「なるのだ。」の舞台裏] [Hankyu Mode Kobe] [インテリア] [ファッション] [ローカルSDG’s]
2022.10.11
売場ニュース
「神戸阪急」ではない。「神戸の阪急」になるのだ。そんな思いが飛び交う、あれやこれやのプロジェクトの舞台裏を、私たち編集室が追いかけるこのシリーズ。前篇に引き続きお伝えするのは、新館1~3階「Hankyu Mode Kobe」フロアの随所に取り入れられた、「木の地産地消」という試みのバックストーリーです。(前篇はこちら)
限りある材を生かし切る「やりくり」の工夫
「神戸の地域材(地域の森林で産出された木材)をモードのフロアづくりに生かす」というテーマのもと、グローバルとローカルがコラボレーションするという取り組みがスタートしましたが、その歩みは常に手探り状態でした。プロジェクトの要を務めた〈シェアウッズ〉の木材コーディネーター山﨑正夫さんは、こんなふうに振り返ります。
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最初はどのブランドさんも「お願いするのは木の素材提供までで、加工は自分たちでやりたい」とおっしゃっていました。ただ僕らの場合、工業的に大量に丸太を製材して、いいところだけを「はいどうぞ」とお渡しできるわけではないんです。扱っている木の性質上、採れる木の量も質も、思惑通りにいかないところが多々ありますから。限りある材を無駄なく使い切るためにも、できるだけ加工までこちらでやらせてくださいとお願いしました。 |
たとえばの話、5本の丸太を製材して5ブランドそれぞれに素材として提供すれば、使われずに捨てられる部分もそれなりの量になります。けれど制作物全体を見渡して、必要な部材をパズルのピースのようにうまく取り分けて使えば、いわゆる「歩留まり」が上がり、少ない丸太でも無駄のないやりくりが可能になる――。山崎さんがこだわるのは、この「限りある材をみんなで分け合う」発想。「家庭菜園の延長のような感覚」という発言の真意も、ここにあるのでしょう。
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今回は「売る側」の方々が、そういう「山の側」の時間軸に歩み寄って理解を示してくださって、ありがたかったです。ブランドさんだけでなく、百貨店さんの許容度も劇的に変わったなあと思いましたね。 |
自然の産物である木を使う、ということのリアル。それを理解してもらうプロセスで重要だったのは、「実際に現場に来て見てもらうこと」だったと山崎さんは言います。
「神戸の地域材活用はこの人を抜きにしては語れない」と言われる木材コーディネータの山﨑正夫。
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加工される前の生木の質量を体で感じていただくこともそうだし、加工作業を見ていただくこともそう。現場を見て初めてわかることってたくさんあると思うんです。今回のプロジェクトの意義は、そこにもあったと思いますね。 |
木という素材で、どこまでデザイナーの発想を具現化できるか
そうやって「山の側」の時間軸を尊重してもらう一方で、デザイナーやクリエイターからのハイレベルな要求に向き合うことになった山崎さん。本国から送られてくるデザイン画を前に、「これを形にするにはどうすれば……」と知恵を絞る日々が続きました。中には、木工のセオリーからはみ出して、加工方法を一から模索する必要があったケースも。たとえば、メゾン マルジェラの大型什器。高さ2300mm、幅2200mm、厚み700mmのパネルは、美しい寄木の風合いと、波打つような表面が印象的です。
メゾン マルジェラのために試作された1/10スケール模型の一部。実際の迫力はぜひ売り場でご覧ください。
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これは縦に寄木をしてから、ロボットアームという機械で削り出しています。この機械を持っている工場は日本でも少ないんですが、たまたまツテのあった神戸の工場でこの削り加工ができると聞いて、頼みに行ったんです。 |
これまでにも地域材をめぐってさまざまな立場の人をつないできた山崎さん。「Hankyu Mode Kobe」の地域材プロジェクトでは、山崎さんを核に、木工職人や工場など合わせて10社が制作に参画することになりました。ひと筋縄ではいかないことの連続ですが、そこで簡単に「無理」とは言わないのが山崎さんらしさです。
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誰もやってこなかったことをずっとやってきたから、これまでの仕事も「初めて」続きでしたしね。僕が持ち帰ってくる案件を聞いて、メンバーがピリピリッとなるのはよくあることなんですが(笑)、みんな優秀な人ばかりなので、最終的にはいいものができるんですよ。 |
そんなふうに話す穏やかな表情を見ていると、山崎さんのもとにあちこちからいろんな相談が持ち込まれる理由がわかる気がします。それではここからは、実際の売り場での地域材活用の様子をご覧いただきましょう。
BLUE BOTTLE COFFEE(ブルーボトルコーヒー) / 一部家具 / 新館 1階
神戸阪急カフェでは、一部の家具のフレームや天板に神戸市北区の里山利活用材(広葉樹コナラ)を使用し、木材の乾燥からプロダクト製作までカリモク家具が担当。
DSQUARED2(ディースクエアード) / 内装壁面 / 新館 2階
ディースクエアードは Hankyu Mode Kobe「SHARE WOODS」プロジェクトに賛同し、六甲山の間伐資材(ヒノキ)で波板を制作して、内装の一部に使用。
Maison Margiela(メゾン マルジェラ) / 売場什器 / 新館 2階
クリエイティブ・ディレクターのジョン・ガリアーノによって提起され、進化し続けるメゾンのコードを視覚的言語として表現したインテリアデザインに、地域材が融合。神戸の造船所で使用されていた杉の盤木を再利用した壁とテーブルが存在感を放ちます。
MARNI(マルニ) / 売場什器 / 新館 2階
神戸市街路樹の手入れで発生したユリの木を使用して、ブランドの象徴的なディスプレイツールであるポディウムを作成。地域の更なる発展を願って行った神戸地区の稀少な木材とのコラボレーションを、ストアで体感できます。
MARNI MARKET (マルニマーケット) / KOBE STOOL
伐採してすぐの水分を多く含んだ杉の生木を成形した後に生まれるダイナミックなひび割れや節目、油分による変色などの経年変化と、マルニデザインとの時を経た大胆なコラボレーション。シリアルナンバー入り。
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今回のプロジェクトでは多くの方に参画いただきました。山崎さんとの対話から始まったプロジェクトを大きく広げてくださったみなさんには本当に感謝しています。本プロジェクトをきっかけに、神戸・六甲山の地域の魅力や課題について、興味を持ってくださる方が増えたら嬉しいですね。えっ?と驚くような既成概念に囚われないクリエーションがモードの魅力のひとつだと思うので、そういった視点からのアプローチで、山崎さんたちと活動を深めていけたらいいですね。無理難題を言って、また困らせてしまいそうですが……(笑)。 |
モード商品部バイヤーの成冨(写真右)と、山崎
授かりものである木を、地域コミュニティで分かち合う
今回のプロジェクトで使用されたのは、六甲山の杉・ヒノキに、北区里山のコナラ、同じく北区の街路樹だったユリノキなど。変わったところでは、造船所での製造作業中に船体を載せる盤木(ばんぎ)用にストックされていた杉もあります。
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この仕事をしていると、人と木のあいだにもご縁ってあるなと思うことが多いんですよね。この木がこの人の手に渡るのには、何か必然性があったんだな、っていうような。人と木の縁結び……そうですね、本当にそうだと思います。 |
そんな幸せな瞬間が多々あるからこそ、捨てられていく木に対する「もったいない」という思いもまた、切実なものがあります。山崎さんがこの仕事を始めて10年。地域材を生かすサイクルが、神戸の中でうまく回り始めた手応えは感じているものの、時には引き取りきれない間伐材が100本、200本と焼却処分されてしまう歯痒い事態が、いまだに起きるのだとか。
1本1本に物語を秘めた丸太たち。捨てずに生かしたいと思う気持ちが山崎の原動力に。
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そこをなんとかできるような道筋をみんなで考えているところです。あとはもうちょっと一般の生活者の方にも、こういう木の仕事と身近に触れ合える機会があるといいですね。 |
山とまちをつないで、小さな巡りの輪を回し続ける山崎さん。その仕事を知るほどに〈シェアウッズ〉という名前にこめられた意味が、改めて説得力を持って胸にストンと落ちるようです。ただ単に木材をシェアするだけでなく、森や木を愛し、未来につないでいこうとする「文化」も分け合う。そんな思いが込められているのでしょう。
モードな感性と、ローカルな地域材。一見、異質に見えるもの同士の出会いから生まれたクリエーションを見つけに、「Hankyu Mode Kobe」のフロアへ出かけてみませんか。木と暮らしの新鮮な関係が、そこから見えてくるかもしれません。
(なるのだ編集室 松本 幸)
山崎正夫
1970年生まれ。出版社勤務を経て、ドイツ木材メーカーの代理店・日本オスモ株式会社に12年在籍。2009年に間伐材を活用した打楽器づくりのワークショップ集団〈カホンプロジェクト〉を創設し、2013年には木材のプラットフォーム〈SHARE WOODS〉を立ち上げ。以来、神戸を中心に、地域材を通じて森とまちをつなぐ活動を続けている。